2018年10月3日星期三

Mr.Children 桜井和寿 專訪 in Yahoo ! JP



「Mr.Childrenはこれからも第一線で戦っていくんだっていう宣戦布告です」。新作「重力と呼吸」をリリースしたMr.Childrenの桜井和寿(48)はそう語る。その裏には、25周年を終えての心境の変化があった。桜井が考える「時代が求める歌」とは。そして「今自分たちが鳴らしたい音」とは。(聞き手・小栁大輔、撮影・太田好治/Yahoo!ニュース 特集編集部)


「歌を歌うことは体を消費すること」
「25周年を境に、いろんなことを考えました。いつまで歌い続けられるんだろう、叫び続けられるんだろうということを、リアルに考えるようになった」
昨年、Mr.Childrenはデビュー25周年を記念した全国ドーム&スタジアムツアーを開催した。9都市15公演、観客動員数約70万人。1公演3時間半、30曲以上。「25年間ありがとう」の気持ちを詰め込んだ「ベストライブ的なライブ」だった。桜井和寿は「過去のMr.Childrenの代表曲をこれでもかっていうくらい」歌いきった。
「ステージで歌うこと、しかもMr.Childrenの歌を歌うことは、魂を消費することではなく、体を消費することなんです。僕はステージを隅から隅まで走り回って、体を使って表現していくことのほうがきっと向いているし、体全部で叫びとともに音楽に変えていくことが僕たちには向いている。(ドーム&スタジアムツアーで)自分たちの良さを改めて確認したような気がします」
ツアーが始まる前は「本当にやれるのだろうか」という不安もあったという。
「あの真夏のスタジアムに向けて、まるでスポーツ選手のようにコンディションを調整していきました。食生活を変えることから始まり、ライブの間に口にするドリンクや栄養補給は何がいいのか考えたりもしました。(ドラムの)JEN(鈴木英哉)なんかもほんとに不安だったと思う。特に僕はボーカリストなので肉体の衰えには自覚的だし、受け入れなければいけないと思っています。ですが、実際にやってみると、まだ余力があった。ツアーが進んでいくうちに、気が付いたら不安よりも自信のほうが大きくなっていた。『俺らまだまだできる』って」
(撮影:薮田修身(W)、提供:トイズファクトリー)
ギターの田原健一、ベースの中川敬輔らとバンドを組んだのは15歳のときだ。鈴木英哉の加入を経て、Mr.Childrenの4人がバンドを組むことになる。1992年にアルバム「EVERYTHING」でメジャーデビューした。4枚目のシングル「CROSS ROAD」で初の100万枚を達成すると、「innocent world」「Tomorrow never knows」と立て続けにヒットを飛ばし、一気にスターダムを駆け上がった。
その後の活躍は周知のとおりだ。2015年のアルバム「REFLECTION」発売後に、アルバム総売上枚数3000万枚を突破。Mr.ChildrenのほかにはB’zと松任谷由実しかいない。
新作「重力と呼吸」を制作するに当たり、桜井にある心境の変化があったという。
「今までは、リスナーがMr.Childrenの音楽に触れるとき、シンガーである僕の顔ですら、思い浮かばないほうがいいと思っていました。もっと若いころは、かっこいいとか、カリスマ性だとか、そういうものを求められていたし、それに応えようとしていたところもあった。だから自分たちの表現も堅苦しかったなあとも思うし、狭かったなあとも思う」
桜井は言葉を選びながら話した後、一呼吸置いてこう言った。
「そういう意味では今、すっごく自由ですね」

「期待に半分応えて、半分裏切る」

2014年からの4年間はMr.Childrenにとって変化の時期だった。
デビュー以来協働して楽曲制作を行ってきたプロデューサーの小林武史と離れ、セルフプロデュースを行うようになった。
2015年には、アルバム「REFLECTION」を、CDとともに、23曲入りの「USB」という異例のかたちでリリースした。通常のアルバムはCDの最長収録時間に合わせて79分、12〜14曲程度に収まっている。しかし「全部聴いてほしい」という思いから、USBで届けるという方法を選んだ。
当時の音楽誌のインタビューで、なぜ23曲入りにしたのかと問われてこう答えている。
「たぶんMr.Childrenって、さあこの指とまれっていうサビでみんな思いを共有するっていう。それをお茶の間レベルでちゃんとやる存在だったけど、もう音楽全体がそれを必要としてないかもしれないと思った時に、どこにボールを投げていいのかわからないっていうのはすごくありましたけどね。『今、必要とされてるポップソングってなんだろう?』っていう、うん。だから、持ってる全部の球種を使って投げるっていう」(「ROCKIN’ON JAPAN」2015年7月号より)
「全部の球種を使って」リスナーに音楽を届けようとしたのが23曲入りの前作だとすれば、新作「重力と呼吸」は「直球勝負」だ。収録曲数は10曲。一般的なアルバムより少ない。
「濃いアルバムにしたかったんです。なんて言うんだろう、『リスナーがそれぞれに、好きな景色をイメージして聴いてください』っていう音楽をずっと作ってきたけれど、このアルバムに関しては自分たちの自我が強く出ていると思います」
それが最も表れているのはサウンドだという。
「ドラムサウンドの重みはすごく考えていました。(今作は)全アルバムの中で最もロック的な要素が強いかな。それこそ弦と指がこすれる音まで聴こえるような、4人のたたずまいを意識して聴いてもらえるような、そういう音にしたかった。今までのMr.Childrenの音像は、ブラスを増やして、弦を増やして、音を重ねていくっていう方法に向かっていたけど、そうじゃなくて、4人だけのダイナミクスで表現の幅を増やすことができるんじゃないかと」
その自信を得たのは、25周年に先立って行われたホールツアーの経験からだ。2017年3月からの全国ホールツアー「ヒカリノアトリエ」。2000席ほどの比較的小規模な空間で「肉体性を極力使わずに、より良い音の響きを作っていくことに集中したライブ」だった。桜井は「あのホールツアーはいい経験だった」と言う。
「だけど同時に『ここを突き詰めていっても俺たちの良さは出ない』と感じたところもあります。メンバーと話し合ったわけではないけど、レコーディング中の会話の端々で、きっと同じようなことを考えているんだなと。特にJEN(鈴木)からは、あのホールツアーで求めていたものをやり続けたらMr.Childrenの良さが消えていくという危機感みたいなものを僕は、感じながら」
「重力と呼吸」の1曲目の「Your Song」は「ワーン、トゥー」という鈴木のカウントから始まる。音が鳴る。そして4小節分の桜井のシャウト。まさに叫びだ。
「歌詞の内容より先にバンドが飛び込んでくる、そういう聴こえ方をしてほしかった。もしかしたら過去のアルバムが好きな人は、あまり望んでいないMr.Childrenのかたちだって思うかもしれないですね。だとしても今こういうアルバムを出すことは、今後のMr.Childrenにとって大事なことだと思います」
「みんなが望むMr.Children」に桜井は自覚的だ。
「(25周年のライブのような)ああいったものをMr.Childrenに求めている人が多いかもしれないんだけど、次の作品も同じようなものだったら、満足する半面、がっかりもすると思うんです。求められるものに応えすぎたら絶対に飽きられる。期待に半分応えて、半分裏切る。なんてこと言ったら戦略家みたいで嫌だけど(笑)。でも、裏切りながら、結果的にお客さんが望むものになっていくんじゃないかという自信があります。直感的に」
そう思う理由は「自分たちが一番のMr.Childrenのファン」だからだ。「次のMr.Children」に一番期待しているのも自分たち自身だ。

「年齢も経験も重ねて、死をどこかで意識する」

ソングライターとしての桜井は、今の時代をどう見ているのだろうか。
「今はたいがいのものがネットを通じて音と視覚で入ってくる。自分自身が、言葉だけを見て、何かを想像したりイメージしたりする力が落ちてきてるなって感じています。だから、リスナーもそうなんだろうと思うんですね」
それに伴って歌詞の書き方も変わってきた。「重力と呼吸」では、生きるとは、自分とはという大きなメッセージは影を潜め、ごく身近で具体的な景色を歌う歌が目立つ。
「リスナーの想像力をあまり信用していないっていうか、もうきっとここまでのことを深く掘り下げて書いても理解しないだろうな、ただ通り過ぎていかれるだろうなっていうのがあるんです。だから、意図的に淡泊に言葉を書いているところはあります」
歌詞の変化はリスナーの変化を意識したものかと、重ねて問うてみる。
「世の中を観察したり、アンテナを張って生活したりしているのではなくて、いつも自分の感覚と対話しながら生活しています。自分も同様に、現代の中で生活している一人だから。時代というものは常に考えているけれど、それはマス(大衆)について考えているってことではなくて、自分の内面を掘り下げればマスにたどりつくと思っているんです。だから、まず自分自身の変化に最初に気が付いて、どうしてかを分析すると、『あ、やっぱり世の中もこうなってるじゃない』と確認するような感じですね」
作詞家としては「淡泊に言葉を書く」ことに物足りなさを感じることはないのだろうか。
「僕らの場合は音楽なので、言葉から何かをそぎ落としたとしても、その部分を声で補うことができる。同じ言葉でも、どのぐらいの強さでエッジを立てて歌うかによって伝わり方が違ってくる」
感情的に歌うということではない。新作のレコーディングのときは、意識的に歌い方を変えた。
「例えば、MISIAさん寄りか中島みゆきさん寄りかで言ったら、今までは中島みゆきさんのように、歌の中の物語によって(自分の感情が)高ぶったら、音程は多少ずれてもよしとしていて。だって人間の感情で高ぶってるんだから当たり前じゃんって。でも今回はそれをよしとしないというか、物語の主人公になって歌うのではなく、ボーカリストとして俯瞰して歌おうと」
今の時代、商品として流通する「歌」は、音程やピッチのずれを機械的に直され、整えられて販売されることも少なくない。
「たぶん今のリスナーは、中島みゆきさん的な歌に対して免疫力が低いんじゃないかと思うんです。みんないま歌うまいから、それは皮肉ではなくて、歌のうまい人も増えているし……そうね、5分の1ぐらい皮肉か(笑)。リスナーは機械で整理されたものを聴いてるから、それが当たり前の音楽のかたちだって思ってると思うんですよね。そこにあまりあらがう気もなくて。自分も丁寧に歌いたいなあと素直に思った。僕も今の時代的な歌になりたいと思った。そのほうが違和感なく歌が飛び込んでいくと思ったので」
気負う様子なくそう話すが、世の中に溢れるデジタル処理された音楽に自らの声で立ち向かうだなんて、十分あらがっている。
(撮影:薮田修身(W)、提供:トイズファクトリー)
「たぶん僕は永遠に、何かに対してカウンターしていくってことがとても好きなんだと思う。だから『ミスター』に対して『チルドレン』だし、期待に半分応えながら、半分裏切るし。歌詞を書くうえでもメロディーを書くうえでも、予定調和をあえてつくっておいて裏返しするっていうことがすごく好きだし」
今年、48歳になった。華やかな25周年が終わって最初にリスナーに届ける音楽は「Mr.Childrenはこれからも第一線で戦っていくんだっていう宣戦布告」だと桜井は言う。
「(今作では)音楽そのものの中にメッセージを込めてはいないけれど、(26年目を迎えて)今もなお叫びがある、そのこと自体がメッセージになり得るから。年齢も経験も重ねていくなかで、死というものをどこかで意識するようにもなった。だからこそ力強く生きる音に対するあこがれが強くなっている。今の僕にとっては、死ぬか生きるかのところでスプリント(全力疾走)していくことがすごく魅力的です」
桜井和寿(さくらい・かずとし)
1970年生まれ。東京都出身。1989年、田原健一、中川敬輔、鈴木英哉とともにロックバンド「Mr.Children」結成。1992年、アルバム「EVERYTHING」でメジャーデビュー。最新アルバム「重力と呼吸」が10月3日発売。

小栁大輔(こやなぎ・だいすけ)
「ROCKIN'ON JAPAN」編集長。1979年生まれ。2004年、株式会社ロッキング・オン入社。2015年より、現職。雑誌の編集長業務と並行して、ROCK IN JAPAN FESTIVAL、COUNTDOWN JAPAN、JAPAN JAMなど各種フェス・イベントのブッキングを担当。